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Shhhと紐解く「NUTION」ブランドサイト制作の裏側。前編:共感のその先へ。矛盾する欲望や想いにインサイトを見出す「対話型」インタビュー

昨年スタートした、パーソルキャリアのデザイン組織「NUTION」。当ウェブサイトの制作をはじめとする、NUTIONのブランディングを担当してくださったのは、Shhh inc.です。NUTIONメンバーも一緒になって議論を重ねながら進んでいったブランディングプロジェクトですが、そのプロセスの中には、私たちの見えないところにも工夫や試行錯誤がたくさんあったはず。と、デザイナーである私たちNUTIONメンバーは、そんな裏側にも興味津々。ぜひ「種明かし」をしてもらいたいと、Shhh inc. のお二人に改めてお話を伺うことにしました。

NUTIONのブランディングプロジェクトは、2022年1月にスタートし、9月末にウェブサイトが公開となりました。9ヶ月間のプロジェクト期間は、前半のディスカバリーフェーズと後半のデザインフェーズに分かれています。前編ではShhh inc.ディレクターの重松さんからディスカバリーフェーズについて、後編は同じくShhh inc.デザイナーの宇都宮さんからデザインフェーズについてお聞きします。

対談した人

  • 重松 佑 さん

    Shhh inc. ファウンダー、ディレクター

    前職ではクリエイティブ・カンパニーである株式会社ロフトワークのシニアディレクターとして約50名のクリエイティブ・ディビジョンを率いる。2015年から宣伝会議にて「プロジェクトマネジメント基礎講座」の講師を担当。2019年にShhh inc.を設立。

  • 宇都宮 勝晃 さん

    Shhh inc. 共同創業者、デザイナー

    仏師への師事後、Webプロダクションにてディレクションへ携わる。2012年よりpresent.の屋号でフリーランスのデザイナーとしての活動を経たのち、Shhh inc.を共同設立。業界トップクラスの専門家のノウハウを学ぶオンライン教育サービス「Coloso」にて講師を担当。

  • 西本 泰司 さん

    P&M戦略本部 デザイン推進統括部 横断戦略デザイン部 ゼネラルマネジャー

    音楽大学で作曲を学んだ後、求人広告営業を経てデザインファームに。領域を問わないUXコンサルティング、中規模〜大規模のWEBサービス・サイト構築ディレクション、イベントのファシリテーション、組織開発などを経験。2021年からパーソルキャリアに入社し、新規サービスデザインと組織開発に従事。人生のミッションは「個の尊厳を最大限尊重する環境を作る」、取り組みたいことは自分の子どものためにキャリアオーナーシップを実現するサービスを作ること。

  • 大迫 龍平 さん

    テクノロジー本部 デザイン推進統括部 ブランドデザイン部 マネージャー (兼務 採用ソリューション事業部 制作部)

    アイドル劇場やイベントの企画・運営、映像制作などの経験を経て、2014年に旧インテリジェンス入社。転職メディア「doda」のライター・ディレクターとして、年間100社の取材、延べ1000本以上の広告・記事制作を行う。現在は採用ソリューション事業部にてデザイナーのマネジメントを担当。

Wonderを引き出すインタビュー

重松:

プロジェクト前半のディスカバリーフェーズは、NUTIONという組織の価値の発見と言語化を目的としています。その核となるのは、デプスインタビューです。今回は8名の方に、パーソルキャリアのデザインチームが持つ特質やビジョンについて、それぞれ90分間お話を伺いました。インタビューをする時には、まずは「事実」のある答えやすい質問から始めて、そこから階段を一段づつ降りるように、徐々に「内面」へと掘り下げる質問をしていくようにしています。限られた時間の中で、より深い話を聞ける状態へ辿り着けるように「ディスカッションガイド」と呼んでいるインタビューシートを事前に作成して、インタビューに臨んでいます。

しかし、いくら準備を万全にしてインタビューに臨んでも「より深く知る」ことを目指すと、90分間のインタビューだけでは物足りないと感じる部分もでてきます。そこで今回、インタビュー後にも継続してインタビュー対象者の方と意見交換のできる場をつくりました。miroのボードを使って、交換日記のようにして、やりとりを重ねていったんです。

「交換日記」に実際に使用されたmiroボード

なぜこうしたことを行ったかというと、その背景には、私たちが大事にしている「きく」という行為の持つ深さがあります。ちなみに、私たちの会社名「Shhh」は、人差し指を唇に当てるジェスチャーの「しー」を意味していて、「多くのことを語るよりも、耳を澄まして深く観察すること」を大切にしたいという思いを込めています。

「きく」という言葉には、たくさんの漢字が当てはまりますが、インタビューにおいて大切なのは、「聞く」「聴く」「訊く」の3つだと考えています。それぞれ、英語の「Hear」「Listen」「Ask」にあたりますね。では、それぞれの「きく」によってできること、そこから得られるものは何でしょうか。「聞く」からは「共有=Share」、「聴く」からは「共感=Empathy」、そして「訊く」からは「興味・驚異=Wonder」だと、私たちは考えています。ここで強調したいのは、3つめの興味や驚異、つまり「Wowの感覚」の重要性ですね。面白さや驚きと出会うことで、心をちゃんと動かすこと。「きく」を重ねていくことで、そこまで辿り着くことが大切です。

フィードバックは痛いくらいがちょうどいい

重松:

続いて、バリデーション(妥当性検証)について。インタビューの後、出てきた内容を整理・統合して、ラベリングをしたまとまりを今回は「15のカルチャーの種」と名付けました。これをプロジェクトメンバー外の方々に見ていただき、プロジェクトから少し離れた場所から、冷静な視点でフィードバックをもらいました。熱量の高い状態にあるプロジェクトメンバーではなく、平熱状態であるプロジェクトメンバー外の方々に見てもらうというのが大事なところですね。

フィードバックの中には厳しいものもあり、今でも見ているとお腹が痛くなってきます(笑)。しかし、フィードバックとしてはその方がよく、痛いくらいでないと妥当性検証にはならないんですね。その後は、フィードバックを判断指標として「15のカルチャーの種」から「間引き」をしていきました。植物の間引きと同様に、有用な「種」を残して、大きく育てるために必要な工程です。「種」はウェブサイト制作やブランディングの考え方のベースとなるものですが、直接的なアウトプットとしては、ウェブサイトのABOUTページの中段にある「NUTIONの価値観」の箇所の言葉に反映されています。

こうした企業のステートメントやカルチャーの言語化をしていく時に、私たちが強く意識していることは「引っ張る」と「支える」の2つの方向性の言葉があることです。今回の「NUTIONの価値観」の文言にも、「共に創り、遠くを目指す」や「はたらくと向き合う」のような、リードすることのできるような前から「引っ張る」力がある言葉と、「自分を育てる」や「小さくても、差し出すことを」といった、後ろから背中を押してくれるような「支える」力がある言葉を入れています。このように、前からと、後ろから両方のベクトルがあることを大切にしました。

また、言語化の際にもっと大切なのが、「どのように(How)」引っ張るのか、あるいは支えるのかというトーン(声色・印象)の部分です。強いのか、優しいのか。落ち着いているのか、元気なのか。これは私の感覚値ですが、多くのクリエイティブ組織はそのトーンが派手で強いケースが多いように思います。一方、NUTIONのトーンはそれらとは違い「素直な」「寄り添いながら」「良心的な」といったような、芯のある柔らかさといった美質が強くあり、個人的にとても好きなカルチャーでした。

NUTIONという名前が持つ「絶対性」

重松:

「NUTION」というネーミングについても少しお話しします。「NUTION」という名称が決定するまで、2ヶ月間半くらいでしょうか。ずっと議論し、検証と確認を重ねました。当初は約40の案があり、そこから選ばれたのが「NUTION」でした。この名称は、「PERSOL(パーソル)」というブランド名の由来と非常に深く関わっています。

パーソル(PERSOL)とは“人”の成長を通じて(PERSON)社会の課題を“解決”する(SOLUTION)という意味の造語で、「PERSON」と「SOLUTION」という語の頭の方の文字が組み合わさって「PERSOL(パーソル)」となっています。「NUTION」というブランド名は、「PERSOL(パーソル)」という名称において隠れていた、後ろの方にある「N」と「UTION」が掛け合わさってできています。つまり「パーソルという企業の持つ独自のストーリー」から生まれた名称だと言えます。別の言い方をすれば、「パーソルじゃなければ意味を成さない」という絶対性を持っている名称ですね。この絶対性を持っているということは、今後も「NUTION」という組織の大きな強みになっていくと思います。

以上、ディスカバリーフェーズのプロセスでした。

「心をちゃんと動かす」ために必要なのは「対話」

ここからは、プロジェクトメンバーである、Shhh inc.の宇都宮さん、パーソルキャリア デザイン推進統括部の西本、大迫も交えてお話ししていきます。

大迫:

初めてこのNUTIONの取り組みについて聞いた時は、Shhhさんはどんな印象を持たれましたか?

重松:

僕たちが最初にお話を聞いたときは、パーソルキャリアの中の複数のデザイン部署に横串を通して、組織としてこれからデザインを推進していく、という動きが始まったばかりでした。お話を聞くまでは、正直なところ「パーソル」と「デザイン」というのが僕の中ではあまり結びついていなかったんです。だからこそ、すごくおもしろいなと思いました。もともとデザインを強く押し出している会社であれば、そういった取り組みをしていくのは当然かもしれませんが、そうではない意外性に面白さを感じたんです。組織としてデザインを推進していく。ここには新しいことが起きていて、自分たちが知らないことが沢山あるだろうなと、興味が湧きました。

左から、大迫(パーソルキャリア)、西本(パーソルキャリア)、重松さん(Shhh)、宇都宮さん(Shhh)

西本:

重松さんのお話を聞いていて、「訊く=Ask」が「興味・驚異=Wonder」を生むというところが印象的でした。デザイン思考の話だと、共感の大切さはよく強調されるんですが、その先にある「ちゃんと心を動かすこと」について語られることは少ない気がして、その切り口が新鮮でした。

重松:

「心をちゃんと動かす」ために必要なのは、やっぱり「対話」ですよね。「インタビュー」というと、一方が他方に質問をして情報を得ることをイメージしがちですが、私たちはインタビューより対話をしたいと思っています。「より深くきく」ということを追求していくと、対話によって生まれる相互理解は欠かせないし、対話の中でこそ、より考えが洗練されたり、これまで考えたことがない領域まで考えることができたり、ということが起こりますよね。

対話は英語で「Conversation」ですが、この単語には「Co=共に」という接頭辞がついています。共につくる、共に考える、共に働く、共にデザインする。そうした態度の中から生まれてくる言葉であったり、ものやこと、デザインを、すごく大切にしたいと思っています。

インサイトは矛盾の中にある

西本:

「きく」ことや「対話」が大切だというのはわかってはいても、実際に自分でやるとなるとなかなか丁寧にやりきれない。それを徹底的にやるっていうのは、それなりに強い覚悟や意思がないとできないことだと思うんです。なんでそれができるのか、その背景にある思いを改めて聞きたいです。

重松:

深い質問ですね(笑)。その質問に答えるために、「インサイトとは何か?」という問いから話を始めさせてもらえれば。インサイトの大切さは、もういろんなところで言い尽くされていると思いますが、改めて「じゃあインサイトって何なの?」と問われるとけっこう難しいんですよね。僕はその答えを10年くらいずっと考えていて、ひとつ辿り着いたのが「インサイトは矛盾の中にある」ということなんです。例えばですが「ラクしたいけど痩せたい」みたいな、矛盾するところに本音が現れて、そこがインサイトにつながっていく。そうした矛盾の中にある欲望って、言葉ではなかなかすくいとれなかったりするんですが、そこをなんとか拾い上げようと挑戦を続けています。もっと矛盾の中にあるような本音を知りたい、だから「きく」。それが根底にあるいちばんの思いかもしれません。

西本:

ブランディングって、きれいにしようとすれば見え方はきれいにはなるけれど、そうすると一般的なものになってしまって差別化ができなかったりしますよね。矛盾や本音ってユニークなものだから、そこにフォーカスを当ててビジュアライズすることは、個別性を出していくとっかかりになると思います。

重松:

その通りだと思います。宇都宮さんはどうですか?

宇都宮:

僕が「きく」を大事にしているのは、答えは相手が持っているものだと思っているからです。アイデアや表現を考える時に何をきっかけにするかというと、相手が何を考えているか、何を望んでいるか、どうありたいと思っているのか。そういったことを深く知ることが、いちばんの足の踏み場というか、根拠になっていく。良いアウトプットをするために、より良いインプットを求めていく、という考え方でいます。

みんなが納得いくまで、一緒に迷う

西本:

そうやってインプットしたものが、クリエイティブにどう影響していくのか、そのあたりの感覚についてもお伺いしてみたいです。ネーミングやデザインなどに、具体的にどのように結びついていったのか。

重松:

もちろんエレメントとしては、言葉やロゴ、デザインのレイアウトなど、それぞれにインプットしたものが結びついているんですが、実は全体を包むトーンにいちばんよく表れているんじゃないかと思います。全体の印象を一貫したものにするとき、その根っこにあたる部分にインプットが効いてくる。

宇都宮:

インプットがわかりやすく表れているのは、サイト内のテキスト部分だと思います。今回、テキストの原稿はほぼ全て重松さんと僕の2人で書いたんですよ。なんでそれが可能になるかというと、ディスカバリーのフェーズで「カルチャーの種」を拾い集めていく作業を2人でしていたから。それがあったから、すんなりと、素直に書けました。そこがいちばん直接的な結びつきだと思います。

大迫:

今回、他のプロジェクトメンバーからも質問を募ったのですが、多く寄せられたのが「合意形成をするために工夫したことは?」という質問です。「きく」ということを大事にしつつも、クライアント側がまだ気づいていない部分もあったりして、方向性を示してそちらに合意を持っていくというようなこともされていたのかなと思うんですが。

重松:

合意形成が今回のプロジェクトでいちばん難しいところでしたね。意思決定者が明確な組織であれば合意形成は比較的やりやすかったりするんですが、NUTIONは中心のない構造の組織なので、合意形成をどうとっていくかにはすごく苦労しました。実際どうやったかというと、打ち合わせは基本的に全部ワークショップにして、とにかく毎回ディスカッションを続ける。合意の流れが自然にできるまでとにかく議論しまくりましたね。

宇都宮:

どこかの方向に僕たちが持っていくということは全くしていなくて、話しながら徐々にみなさんの意識が「こっちだよね」となっていく感じでした。

重松:

なので、みなさんが迷っている時は僕らも一緒に迷ってましたね。それが実態です(笑)。

宇都宮:

そういうやり方ができたのは、プロジェクト条件がよかったからだとも言えると思います。スケジュールがタイトだったり、プロセスの重要性への理解が低いような場合ですと、ある種の強引さが合意形成に求められる局面も出てきてしまい、十分な納得感が得られていない状態で進行してしまう可能性もありうる。今回は、西本さんをはじめとするみなさんが、時間の制約や過度なプレッシャーを極力感じさせないよう配慮くださり、ちゃんと議論ができる環境を作っていただいたのがすごく大きかったんじゃないかなと思います。

こうして、「きく」と「対話」を繰り返しながら進んだディスカバリーフェーズ。そこで拾い集めた「種」を、続くデザインフェーズではいよいよ視覚化していきます。後編ではその視覚化のプロセスについて、デザイナーの宇都宮さんに伺います。「良いコンセプトとは何か?」「普段のインプットをデザインの仕事につなげるには?」など、気になるトピックが満載の後編:コンセプトメイキングで「的を絞る」。揺るぎない表現を導く視覚化のプロセスもぜひご一読ください

※ 所属・肩書および仕事内容は、取材当時のものです。

執筆:新原なりか
撮影:吉田周平
編集:重松 佑(Shhh inc. )

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